寺山修司の少女詩集(角川文庫)から、「ヒスイ」という詩を紹介します。
この詩は合唱曲にもなっています(作曲:信長貴富)。アカペラと、ピアノ伴奏付きと、二つのバージョンがありますが、どちらも美しい曲です。
詩だけ眺めていても、メロディーが聴こえてきそうで素敵です。
Jade
ヒスイなみだを遠い草原に
ヒスイをきみのてのひらに過ぎ去った夏に
そう歌った石よ
それはまばゆいばかりの緑
小さな大自然なみだを遠い草原に
ヒスイをきみのてのひらにだがヒスイは買うにはあまりにも
高価すぎて
ぼくはあまりにも
貧しかっただからこそ僕は歌ったのだ
せめて言葉の宝石で
二人の一日を
かざるためになみだを遠い草原に
ヒスイをきみのてのひらに
寺山修司「ヒスイ」~鑑賞・解説~
「ヒスイ」の宝石についてと、詩の内容について触れていきます。
ヒスイについて
「ヒスイ」は緑色の半透明な宝石です。
東洋や中南米では、古くから重宝されて、金よりも価値があるとされていました。
現在の日本では、五月の誕生石として、エメラルドと共に親しまれています。
五月は寺山修司が、愛してやまなかった月。第一作品集は『われに五月を』という題ですし、亡くなられたのも五月です。
※第一作品集『われに五月を』より、「五月の詩」を紹介している記事です。もしよかったら、ご覧くださいね↓
宝石のヒスイは、カワセミの羽の色に例えられて、そう名付けられました。
「ヒスイ」の詩を読むとき、あの色鮮やかで美しい鳥のイメージもからめてみると、面白いかもしれませんね。
リフレインと過去形
さて、この詩には三回、リフレインが出てきます。
なみだを遠い草原に
ヒスイをきみのてのひらに
このリフレインは、いとしい恋人である「きみ」に、歌いかけている言葉でしょうか。
悲しいなみだは、雨雲が遠のいていくように、遠い草原へこぼれてしまえばいい。なみだの代わりに、まばゆいヒスイを、きみのてのひらに……
そのようなキラキラとした願いが、このリフレインから感じられるようです。
第二連に「過ぎ去った夏にそう歌った石よ」とありますね。
第四連・第五連が過去形であることから、きみと共に過ごしていたのは、遠い昔であると想像できます。
青く未熟で、どこか切なくて、それでも幸せで光り輝くような日々だったのでしょう。
「ヒスイ」の合唱曲は人気があるようで、ユーチューブで検索すれば視聴することができます。
とても綺麗な曲なので、興味がある方は、ぜひ聴いてみてくださいね。
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