【2月の詩】立原道造「浅き春に寄せて」

当ブログでは毎月1編ずつ、その月にちなんだ詩を紹介する予定です。

2月の今回は、立原道造「浅き春に寄せて」です。

浅き春に寄せて

今は 二月 たつたそれだけ
あたりには もう春がきこえてゐる
だけれども たつたそれだけ
昔むかしの 約束はもうのこらない

今は 二月 たつた一度だけ
夢のなかに ささやいて ひとはゐない
だけれども たつた一度だけ
そのひとは 私のために ほほゑんだ

さう! 花は またひらくであらう
さうして鳥は かはらずに啼いて
人びとは春のなかに笑みかはすであらう

今は 二月 雪のおもにつづいた
私の みだれた足跡……それだけ
たつたそれだけ――私には……

愛しいひとが遠くへ離れていってしまったとき……心は愛しいひとがいた過去に強烈に囚われて、今という時に対しては無感動になってしまうのかもしれません。

「浅き春に寄せて」の冒頭において主人公は、

「今は 二月 たつたそれだけ」

と呟いていますが、季節の流れに対しても感情が凍えているようです。たとえその季節が、寒い冬から暖かな春になろうとしていてもです。

では、主人公にとってリアリティーを持つものは一体何でしょう?

それは、愛しいひとがたった一度だけ私のために微笑んだ過去と、人々が春のなかで笑みを交わすであろう未来です。

私はこの詩を読むと、今という時が虚ろで、過去と未来が光り輝いている印象を受けます。

ところで立原道造は、自作詩においてユートピアを設計しようとしていたのではないかと、私は思うことがあります。

この詩においても、そうですね。

「今ではない、いつか」「ここではない、どこか」……そこに、切なくも美しいユートピアが息づいているようです。

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誕生日・忌日一覧(2月)

※青文字の氏名をクリック(タップ)すると、その詩人の作品一覧を見ることができます。

誕生日

八木重吉 1898年(明治31年)2月9日-1927年(昭和2年)10月26日
石垣りん 1920年(大正9年)2月21日-2004年(平成16年)12月26日

忌日

茨木のり子 1926年(大正15年)6月12日-2006年(平成18年)2月17日

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