あなたは詩に一目惚れしたことはありますか。
これから紹介する高田敏子さんの詩「紅の色」は、私にとってまさに一目惚れした詩です。この詩に出会ったことがきっかけで、私は高田敏子さんが大好きになりました。
さっそく引用いたしますね。
紅の色
やさしさとは
ほうれん草の根元の
あの紅の色のようなものだと
ある詩人がいったその言葉をきいた日
私はほうれん草の一束を求めて帰り
根元の紅色をていねいに洗った二月の水は冷たい
冷たい痛さに指をひたしながら
私のやさしさは
ひとりの時間のなかをさまよっていた
高田敏子「紅の色」~鑑賞・解説~
高田敏子さんは主婦でありながら、生活と詩を結ぶ「野火の会」を主宰していました。詩を愛する心があれば誰でも入れる会で、日本全国にその輪は広がっていました。
「野火の会」を力強く支える一人として、詩人の安西均さんがいました。
さて、「紅の色」の詩は、安西さんの一言がきっかけで生まれた詩です。
「ほうれん草の根元の赤さみたいな、やさしさを詩に書きたい」
そう呟いた安西さんに、ハッとひらめいた高田さんが、後日こんなにもやさしい詩を書きあげました。
当時、高田さんは、ほぼ一人暮らしでした。三人の子どもたちは独立して、夫とも心が通うことがありませんでした(後に離婚しています)
高田さんはどのような思いで、冷たい痛さに指をひたして、この詩を生み出したのでしょう。そのさみしさを想像すると、この身にも何かが沁みわたるようです。
詩はそのままで味わえる
くり返しになりますが、「紅の色」は私が一目惚れした詩です。
図書館でたまたま詩集『あなたに』を手にとり、この詩を見つけたとき、思わず目を見開いてしまいました。それから図書館で何冊も何冊も、高田敏子さんの詩集を借りて、読みあさるようになりました。
「紅の色」の解説文はおろか、高田敏子さんについて何も著書で読んだことがないのに、一瞬でこの詩は私の友だちになりました。
詩というのは、本来何も余分な知識がなくても、そのままで味わえるものだと思うんですね。
なので、ここに書いたこともあくまで参考程度にして、心のままに詩を堪能していただけると嬉しいです。
コメント