立原道造は、ソネット(14行詩)の名手です。
青春の憧れと哀しみを、みずみずしい情感で歌ったソネットは、今も多く人を虜にしています。
今回はそのなかでも、ひときわシンプルで美しい詩、「夢みたものは・・・」を紹介します。
夢みたものは‥‥
夢みたものは ひとつの幸福
ねがったものは ひとつの愛
山なみのあちらにも しずかな村がある
明るい日曜日の 青い空がある日傘をさした 田舎の娘らが
着かざって 唄をうたっている
大きなまるい輪をかいて
田舎の娘らが 踊をおどっている告げて うたっているのは
青い翼の一羽の 小鳥
低い枝で うたっている夢みたものは ひとつの愛
ねがったものは ひとつの幸福
それらはすべてここに ある と
立原道造「夢みたものは・・・」~鑑賞・解説~
夢みてねがった愛と幸福が、すべてここにあると、静かな充実感をもって歌われていますね。
私はこの詩ほど、青い空が歓びに満ちて描かれている詩を見たことがありません。
実は立原道造は、24歳の若さで夭折しているのはご存知でしょうか。
「夢みたものは・・・」が収録されている詩集『優しき歌』は、道造が亡くなる前年に構想されました。道造はその時、肺尖カタルのため療養中でした。
どれほど詩集が形になることを、夢見たことでしょう。しかし日の目を見ることなく、道造は結核で亡くなります。
そのことを思うと、ソネットの言葉がいっそう深く、心に響いてきますね。
「夢みたものは・・・」を解釈する鍵
立原道造は死を予感するなかで、どのような思いでこのソネットを歌ったのでしょう。
それを解釈する鍵が、詩中の至る所にちりばめられています。
まるい輪
「夢みたものは・・・」は、「まるい輪」がとても象徴的に描かれています。
まず一週間はめぐりめぐって、日曜日という休日になりますね。
日傘も閉じているときは細いステッキですが、開けば丸い形になります。
そして田舎の娘らは、輪をかいて踊りをおどっています。
何よりこのソネットも、第一連の「夢みたものは」「ねがったものは」というフレーズが、第四連で形を変えて表れています。それはまるで、このソネットも大きな輪をえがいているかのようです。
なぜここまで、まるい輪にこだわるのか。
それは輪というものが、自然や人との和であり、循環にも繋がるからでしょう。
輪は循環し続けるかぎり、終わることはありません。
青い空と青い鳥
「夢みたものは・・・」では、二か所に「青」という色が描かれています。
「青い空」と「青い鳥」です。
青い空は明るく、高らかであることが想像できますが、青い鳥は低い枝でうたっていると書かれています。
低い枝ということから、翳りも感じられますが、よりいっそう地面にいる私たちの側に青い鳥がいるという風にも受け取れます。
愛や幸福は、果てしない空にも、手に届きそうなところにも存在していると、暗示しているのかもしれませんね。
【まとめ】夢は終わらない
立原道造の代表作といえるソネット「夢みたものは・・・」について紹介しました。
いかがでしたでしょうか。
道造が夢みた愛や幸福は、素朴で慎ましいものだったと私は思います。
そしてそれは、空の向こうにも近くにもあり、まるい輪をえがいて終わらないものだと信じていたでしょう。
そう解釈したとき、このソネットは死という悲哀から解き放たれて、とても生き生きと響いてきます。
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