詩集『歳月』について書いた記事をまとめました。
この詩集は茨木のり子さんが夫の安信さんへの想いを綴った恋愛詩集です。
茨木さんは安信さんに先立たれてから、31年の長い歳月をかけて、40篇近い詩を書き溜めていきましたが、これらの詩はずっと明るみに出ないままでした。
茨木さんが安信さんの元へ旅立たれたあと、生前の意思を受けて、2007年に詩集『歳月』は日の目を見ました。
当ブログでは、この詩集から4篇選んで、それぞれ全文引用付きで鑑賞文を書いています。以下のブログカード(画像付きボタン)から、それぞれの記事へ飛ぶことができますので、ぜひご覧くださいね。
(文末に簡単ながら、詩集『歳月』の感想も記しています)
詩集『歳月』・4選
一人のひと
ひとりの男を通して
たくさんの異性に逢いました
男のやさしさも こわさも
弱々しさも 強さも(部分)
急がなくては
急がなくてはなりません
静かに
急がなくてはなりません
感情を整えて
あなたのもとへ(部分)
なれる
おたがいに
なれるのは厭だな
親しさは
どんなに深くなってもいいけれど(部分)
歳月
真実を見きわめるのに
二十五年という歳月は短かったでしょうか(部分)
詩集『歳月』・感想
私は長年、茨木のり子さんのファンを続けていますが、ずっと不思議におもっていたことがありました。
茨木さんの言葉に秘められつつも隠しきれない、「かおり」とでもいうのでしょうか。
単に強いだけじゃない。初々しさ、柔らかさ、奥ゆかしさ、等々……。茨木さんの詩や文章から、これらの魅力がふくいくと香り立っていて、それがどこから漂っているのか、知りたくて知りたくてたまりませんでした。
結論から先にいうと、詩集『歳月』を手にしたことで、その香りのもとを思いがけず垣間見れたような気がしました。
詩集『歳月』を開けば、夫の安信さんへの恋心が、熱く赤裸々に綴られています。「自分の感受性くらい」や「倚りかからず」でしか茨木さんを知らない人が見たら、「えっ!」と驚くに違いないでしょう。なるほど。茨木さんが生前に公開するのが照れ臭かったのも頷けます。
茨木さんが遺したこれらの恋愛詩を見ていると、生前に発表された詩の数々も、一人で書いたのではなく、二人で書いたのではないかとさえ思えます。
もちろん詩作そのものは一人で行うものです。しかしその根本を支えていたのは、二人の生活だったに違いないです。
夫の安信さん抜きに、茨木さんの詩は語れません。安信さんは死してもなお、茨木さんの隣で生き続けました。
茨木さんの『歳月』の詩は、今も私の胸で熱く息づいています。
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