ふるさとは遠きにありて思ふもの…室生犀星「小景異情」

室生犀星の詩「小景異情」をご存知の方は多いと思います。

たとえその題に覚えがなくても、詩をご覧になったら、ハッと思い当たるのではないでしょうか。

「小景異情」は六篇の短い詩から成るのですが、なかでも有名な「そのニ」を引用します。

小景異情―その二

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

いかがですか。

「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という出だしだけでも、暗唱している方は多いですよね。

この「小景異情」はすべて、犀星が故郷である金沢で書いた作品です。

「え?ふるさとにいなから、なんでふるさとは遠くにあって思うものなの?」と疑問に感じるかもしれませんね。

ここでは、「小景異情」が生まれた背景と、詩の内容について解説いたします。

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詩人・室生犀星の生い立ち

室生犀星は、複雑な宿命を背負っている詩人です。

その生い立ちを辿ってみましょう。

1889年(明治22年)、ある赤ん坊が金沢で生まれました。(後の犀星です)

実父・小畠弥左衛門吉種は、加賀藩の足軽頭をつとめたことがある人物です。
実母・ハルは、小畑家に仕えていた女中でした。

二人の間に生まれた赤ん坊は、無名のまま、赤井ハツという女性に手渡されました。

養母・赤井ハツは、雨月院の住職・室生真乗の内縁の妻でした。
ハルの私生児は、ハツの私生児として、照道と名づけられて届け出されました。

この生い立ちは、犀星の生涯に長々と暗い影をおとします。

幼少期の犀星の励みとなったのは、文学でした。俳句や詩などを書いて、新聞や雑誌に投稿するようになりました。

1910年(明治43年)、犀星は20歳で上京を果たしました。文筆で身を立てようとしましたが、自立するまでには時間がかかりました。養父からの仕送りに頼らざるをえなく、東京と金沢を行ったり来たりの生活が長く続きました。

戻りたくない金沢に嫌々ながら足を踏み入れて、そして書かれたのが「小景異情」です。

小景異情」の解説

もう一度、「小景異情―その二」を引用しますね。

小景異情―その二

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

青年の犀星は、故郷・金沢の地に居ながら、こう思います。

「ふるさとは遠くにあって思うものだ。東京で乞食になったとしても、帰るところじゃない」

犀星の脳裏には、自分が東京にいて故郷をおもい感傷にひたっている姿が、ありありと思い浮かんだことでしょう。でも残酷なことに、現実にはこの身は金沢にいます。

犀星は遠い東京に帰りたいと、強くつよく願います。

  • 4行目:異土=東京
  • 6行目:都=東京
  • 9~10行目:みやこ=東京

以上の語句はすべて東京と解釈すると、すんなりとこの詩を味わうことができるでしょう。(6行目の「都」を、金沢と解釈することもできなくはないですが)

なお、「小景異情」という題には、

  • 小情景に浸ることのできないわが心
  • 目の前の情景にそぐわないわが心

以上のような意味があります。

ふるさとにいながら、心から落ち着いて帰れる場所はどこにもなく、ふるさとではない場所に帰りたいと切望することは、決して珍しいことではないと思います。

犀星ほどでないにしても、実家や故郷に対して複雑な思いを抱えたまま、遠い場所へ巣立った人にとって、この詩は心に響くでしょう。

実際、私自身も故郷から離れて暮らしているのですが、実家を出たばかりのころは、この詩の冒頭文ばかりを口ずさんでいました。

「ふるさとは遠きにありて思ふもの」…って。

「小景異情」の全文

最後に、「小景異情」を通して読みたいという方に向けて、全文を引用いたします。

その一

白魚はさびしや
そのくろき瞳はなんといふ
なんといふしほらしさぞよ
そとにひる餉げをしたたむる
わがよそよそしさと
かなしさと
ききともなやな雀しば啼けり

その二

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

その三

銀の時計をうしなへる
こころかなしや
ちよろちよろ川の橋の上
橋にもたれて泣いてをり

その四

わが霊のなかより
緑もえいで
なにごとしなけれど
懺悔の涙せきあぐる
しづかに土を掘りいでて
ざんげの涙せきあぐる

その五

なににこがれて書くうたぞ
一時にひらくうめすもも
すももの蒼さ身にあびて
田舎暮しのやすらかさ
けふも母ぢやに叱られて
すもものしたに身をよせぬ

その六

あんずよ
花着け
地ぞ早やに輝やけ
あんずよ花着け
あんずよ燃えよ
ああ あんずよ花着け

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