室生犀星は、雪深い北国の金沢で育ちました。
十一月初旬のしぐれは日を追うごとに霙となり、野山や街や家々を包む雪となります。四月まで降雪が続くなか、どれほど雪解けを待ち望んだことでしょう。
室生犀星が少年の日の想いをつづった第二詩集『叙情小曲集』より、主に雪解けにまつわる詩を4編紹介いたします。
叙情小曲集・序詩
雪のしたより燃ゆるもの
かぜに乗り来て
いつしらずひかりゆく
春秋ふかめ燃ゆるもの
『叙情小曲集』冒頭の「自序」の手前に掲げられている詩です。(題名はありませんが、便宜上「序詩」と呼ばせていただきますね)
少年の日に予感した、雪の下より燃えるいのちと、この詩集にかける意気込みが、序詩から滲み出ているようです。
木の芽
木の芽
麦のみどりをついと出て
ついともどれば雪がふり
冬のながさの草雲雀
あくびをすれば
木の芽吹く
麦のみどりの芽が雪から出たかと思えば、雪が降るという、三寒四温のころをユーモラスに歌っています。
草雲雀は小形のコオロギのこと。秋の季語でもあります。冬に草雲雀が鳴くなんてありえないので、草原に鳴く雲雀のイメージを重ねているのかもしれませんね。
ポンと、意外性のあるイメージを描くことで、詩情をかき立てます。
三月
三月
うすければ青くぎんいろに
さくらも紅く咲くなみに
三月こな雪ふりしきる雪かきよせて手にとれば
手にとるひまに消えにけり
なにを哀しと言ひうるものぞ
君が朱なるてぶくろに
雪もうすらにとけゆけり
七五調がベースのリズムが心地良い詩。「青」「ぎん」「紅」「朱」と色彩も豊かです。
「君」というのは思いを寄せる女の子のことでしょうか。「君が朱なるてぶくろに」白い雪がとけるイメージが鮮やかで瑞々しく、胸を打たれます。
ふるさと
ふるさと
雪あたたかくとけにけり
しとしとしとと融けゆけり
ひとりつつしみふかく
やはらかく
木の芽に息をふきかけり
もえよ
木の芽のうすみどり
もえよ
木の芽のうすみどり
ようやく長い冬を終えて、あたたかく雪がとけていきます。
「もえよ」という言葉は、「萌えよ」と「燃えよ」をかけているのでしょうか。
春が始まるよろこびが、滲み出ているようですね。
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