茨木のり子さんが、先立たれた夫への想いを綴られた詩集『歳月』。
当ブログでは、この詩集から4つの詩を紹介する予定です。
2回目の今日は、「急がなくては」についてです。
※前回の記事はこちら⇒茨木のり子「一人のひと」…詩集『歳月』より
急がなくては
急がなくてはなりません
静かに
急がなくてはなりません
感情を整えて
あなたのもとへ
急がなくてはなりません
あなたのかたわらで眠ること
ふたたび目覚めない眠りを眠ること
それがわたくしたちの成就です
辿る目的地のある ありがたさ
ゆっくりと
急いでいます
茨木のり子「急がなくては」~鑑賞・解説~
ゆっくりと急いでいます
茨木のり子さんは49歳のときに、夫の安信さんを亡くされます。
それから31年間、ずっと一人暮らしを続けていました。
「ゆっくりと急いでいます」
遠くへ旅立っていった夫への想いを、これほど的確に表現した言葉は、そうそうないのではないかと思います。
夫の後を追って、心を逸らせながら、着実に歩みを進めているのが感じられます。
「急ぐ」という言葉からは程よい緊張感が、「ゆっくり」という言葉からは丁寧さが伝わってきます。
「程よい緊張感と丁寧さ」。これらは茨木のり子さんの、生きる姿勢だったのではないでしょうか。
わたくしたちの成就
あなたのかたわらで眠ること
ふたたび目覚めない眠りを眠ること
それがわたくしたちの成就です
茨木のり子さんは夜ごと独り寝するたびに、どれほど寂しかったことでしょう。
夫のかたわらで永遠に眠りたいと、何度も願ったに違いないです。
片割れが亡くなられてもなお、お二人の物語は続いていたのですね。
茨木のり子さんは、わたくしたちの成就に向かって、天寿を全うされました。
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