北原白秋は猫に特別な思い入れがあったのでしょうか。
幼少年時代の記憶をもとにつづった第二詩集「思ひ出」には、猫が出てくる詩が多いです。(実際に数えてみたら、14作ありました!)
ここではそのひとつ、「猫」を紹介しますね。
猫
夏の日なかに青き猫
かろく擁けば手はかゆく、
毛の動げはわがこころ
感冒のここちに身も熱る。魔法つかひか、金の眼の
ふかく息する恐ろしさ、
投げて落せばふうわりと、
汗の緑のただ光る。かかる日なかにあるものの
見えぬけはひぞひそむなれ。
皮膚のすべてを耳にして
大麥の香になに狙ふ。夏の日なかの青き猫
頬にすりつけて、美くしき、
ふかく、ゆかしく、おそろしき――
むしろ死ぬまで抱きしむる。
北原白秋「猫」~鑑賞・解説~
猫と幽霊の思い出
夏の暑い日に、猫を抱いていたら、本当に身が熱りそう……
その熱っぽさや息づかい、深々した匂いまで、伝わってくる詩です。
北原白秋は生まれつき虚弱児で、ほんのわずかな外気に当たるか、冷たい指さきに触られても、40度近くの高熱を出していたといいます。
しかも夜がとても怖く、しまいには昼間に青白い幽霊を見るようになりました。
詩集『思ひ出』の「わが生ひたち」には、次のような文があります。
後には晝の日なかにも蒼白い幽靈を見るやうになつた。黒猫の背なかから臭の強い大麥の穗を眺めながら、前の世の母を思ひ、まだ見ぬなつかしい何人かを探すやうなあどけない眼つきをした。
「猫」の詩の、「見えぬけはひぞひそむなれ」というのは、おそらく幼い日に見た幽霊のことでしょうね。
「死ぬまで抱きしむる」
ところで、「猫」の詩は最後のー行が絶妙です。
夏の日なかの青き猫
頬にすりつけて、美くしき、
ふかく、ゆかしく、おそろしき――
むしろ死ぬまで抱きしむる。
猫に心惹かれるのだけれど、恐ろしくて、むしろ死ぬまで抱きしめるなんて!
震えつつも、ぎゅっと猫を離さないでいる姿が、ありありと想像できます。
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