谷川俊太郎さんの「朝のリレー」は有名な詩です。
教科書で目にしたことがある人、CMで朗読されているのを耳にしたことある人は、多いのではないでしょうか。
ここでは、CMと収録詩集について触れたあと、詩の内容について語ります。まずは全文を引用いたしますね。
朝のリレー
カムチャツカの若者が
きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっているぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ
谷川俊太郎「朝のリレー」
詩の鑑賞と解説
ネスカフェのCM
谷川俊太郎さんの「朝のリレー」が朗読されたのは、ネスカフェのCM。
静かに清々しく心に響くCMです。
息子の谷川賢作さん作曲・演奏によるピアノ曲がバックに流れ、さまざまな朝の空が映し出されます。このピアノ曲が、遠くから聴こえるベルのようで詩的です。
「朝のリレー」と、朝に目を覚まさせるコーヒーは、相性がバツグン。CMの終わりで、白いカップに満たされたブラックコーヒーを見ると、不思議とコーヒーが飲みたくなります。
このCMは2004年にACCのCMフェスティバルでグランプリを受賞しています。
収録詩集について
谷川俊太郎さんのアンソロジーに、「あさ/朝」という本があるのはご存知でしょうか。
谷川俊太郎さんによる朝をテーマにした言葉と、吉村和敏さんによる朝の美しい写真が組み合わされたビジュアルブックで、詩集としても絵本としても楽しむことができます。私も大好きな一冊です。
このアンソロジーには、もちろん「朝のリレー」も収録されています。
この本によると、「朝のリレー」の初出は『谷川俊太郎詩集』(日本の詩人17)。1968年に河出書房より出版された本なので、「朝のリレー」は谷川俊太郎さんが30代半ばまでに書かれたことが分かります。
なお、「朝のリレー」は、谷川俊太郎詩選集 1 (集英社文庫) でも読むことができます。
鑑賞のポイント
さて、肝心な「朝のリレー」の内容について。
ロシアのカムチャツカ半島から、北米南部のメキシコ合衆国、アメリカのニューヨークから、イタリアのローマへと、朝をリレーするという発想が面白いです。
地球には時差があるので、経度から経度へと、朝は移っているのですね。
谷川俊太郎さんの作品のなかには、「朝のリレー」をはじめ、宇宙の遥か彼方から地球という星を眺めているような詩がいくつもあります。
宇宙の遥か彼方からの視点。これは有り触れていそうで、谷川さんにしか持ち得ない視点です。
ためしに日本の詩(特に近代詩)の代表作を読んでいただきたいのですが、谷川さんのような視点で書いている詩は、まずないです。
では、このような視点が突拍子ないかといったら、そうではなくて、私たちの中にもちゃんと存在しているものだと思います。
谷川さんの詩には、私たちも宇宙から生まれたのだと思い出させる力があります。
「朝のリレー」は、そのパワーをバトンタッチしてくれるような、名作ですね。
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