宮沢賢治の「高原」は、わずが五行の短い詩ですが、大自然の風景が生き生きと伝わってきます。
さっそく引用しますね。
高原
海だべがど おら おもたれば
やつぱり光る山だたぢやい
ホウ
髪毛 風吹けば
鹿踊りだぢやい(一九二二、六、二七)
※『春と修羅』所収
宮沢賢治「高原」~鑑賞・解説~
「高原」の訳と解釈
いかがでしたか?
いきなり岩手の方言が出て、驚いてしまったでしょうか?
宮沢賢治が岩手出身であることは、多くの人が知っているところです。「高原」の詩は、賢治が故郷の言葉で、故郷の悠大な風景をうたった詩です。
簡単に標準語に訳すると、以下のとおり。
海じゃないかと思ったら、やっぱり光る山だったじゃないか!
ホウ、髪の毛に風吹けば、鹿踊りじゃないか!
私は初めてこの詩を目にしたとき、光る山がふわーっと眼前に広がって、風がこちらまでどっと押し寄せてくるような思いがしました。
海と見まごうくらい、きらめく山なみ。そこから強い風が吹いてきて、髪の毛を逆立てます。
それを賢治は、「ホウ!鹿踊りじゃないか!」と思ったんですね。
「鹿踊り」は岩手の伝統芸能です。鹿の頭をかぶって、髪を振り乱しながら、太鼓を叩いて勇壮に踊ります。
賢治の胸躍るような感動が、そのまま直に伝わってきます。
方言詩の魅力
「高原」の詩が、もしも標準語で書かれていたとしたら、ここまで生命感に満ちあふれなかったんじゃないでしょうか?
これは賢治の故郷の言葉だからこそ、こんなにも文字まで躍って見えるのだと確信しています。
方言とはまさに、その土地で生まれ育った言葉です。
岩手の澄み切った空気、広大な土地、雪深い冬、その厳しい自然と共に暮らしている人々……。これらのものを養分として、岩手の言葉は育まれてきました。
その土地の風景をうたうのに、その土地の方言を使うのは、とても理にかなっていることですよね。
「高原」の詩の場合は、息でもするかのように、ポッと方言となって出てきたのではないかと想像しています。
「高原」は方言詩の名作だと言えます。
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