金子みすゞさんの詩「不思議」は、大人から子どもまで多くの人に愛されている代表作です。
なぜこの詩がそこまで人を惹きつけるのか、かえって不思議におもいませんか?
ここでは私自身の感想をお伝えすると共に、その表現の特徴についても触れてみます。
不思議
私は不思議でたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかっていることが。私は不思議でたまらない、
青い桑の葉たべている、
蚕が白くなることが。私は不思議でたまらない、
たれもいじらぬ夕顔が、
ひとりでぱらりと開くのが。私は不思議でたまらない、
誰にきいても笑ってて、
あたりまえだ、ということが。
金子みすゞ「不思議(ふしぎ)」~鑑賞・解説~
【感想】子どもは不思議の天才
「不思議」の詩のように、子どものころは誰もが、「なんで?」「どうして?」と疑問符を浮かべてばかりいたのではないでしょうか。
子どもは不思議を発見する天才です。
この記事を書いている私も、そんな子どもの一人でした。
両親に質問をぶつけてばかりいましたが、「大人になったらわかるよ」とはぐらかされていました。
当然、大人になってからも、分からないものは分かりません。
それどころか、疑問に感じたことを、自分自身のなかで「あたりまえだ」と片付けてしまっていないかな……と、「不思議」の詩を見て反省しているところです。
大人でありながらも、子ども心のままに純粋な問いかけをしているみすゞさんに、とても大切なことを学んだ思いです。
私たち自身も、「不思議」なことを日々見つけることが出来たら、日常生活が楽しくなりますよね。
たとえば、黒い雲から雨がふる日に、「嫌だな…憂鬱だな…」とふさぎ込むよりも、「あれ?何で雨が銀色にひかっているんだろう?」と気づいた方が、世界が輝いて見えはずです。
【表現技法】言葉にどんな工夫をしているの?
さて、金子みすゞさんの「不思議」は、小学校の国語の教科書に採用されています。
多くの人に知られているこの詩が、どのように言葉を組み立てているのか、気になるところですよね。
この詩に目を凝らしてみると、みすゞさんがいかに言葉を大切に扱って、工夫していたかが感じられます。
みすゞさんが雨や桑や夕顔に目を向けていたように、私たちもみすゞさんの言葉に目を向けて、表現技法の謎を紐解いてみましょうね。
倒置法
「不思議」では倒置法が使われています。
倒置法とは、文の語や文節をなどを、普通の順序とは逆にする表現法です。語勢を強めたり、語調を整えたりするために用いられています。
この詩で言えば、「私は不思議でたまらない」という思いを強調するために、行の順番が逆転しています。
ためしに比較してみましょうか。
- 私は不思議でたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかっていることが。 - 黒い雲からふる雨が、
銀にひかっていることが、
私は不思議でたまらない。
(1)と(2)と、どちががより強く「私は不思議でたまらない」という気持ちが伝わってきますか?
そうですね。(1)ですね。
言葉の順番でいえば(2)の方が普通ですが、「不思議」という思いを強めるために、あえてこの言葉を先に持ってきています。
反復法
「不思議」では反復法も使われています。
反復法とは、リフレインのこと。同じ言葉や似た言葉をくり返すことです。その言葉を強調したり、気持ちを高めたり、リズム感を付ける効果があります。
この詩では、「私は不思議でたまらない」という言葉が、4回くり返されています。
同じ言葉をくり返すことで、詩にメリハリが生まれて、寄せては返す波のような心地よさが満ちあふれます。
脚韻
「不思議」では、押韻の一種である脚韻が使われています。
脚韻とは、行末を同音や類音でそろえることで、文章をリズミカルにする効果があります。
「不思議」は全ての連が、「が」の音で終わっています。
たとえば、イギリスの童謡であるマザーグースでも、脚韻は使われています。それと同じようなことを、みすゞさんは試みているのですね。
【特徴】新鮮な視点に驚かされる
金子みすゞさんの「不思議」の詩は、倒置法と反復法を重ね合わせることで、「私は不思議でたまらない」という気持ちが強くリズミカルに打ち出されています。
第一連から第三連までは、自然に対する疑問が次々と描かれています。
ところが最終連では、それを「あたりまえ」の一言で片付けてしまう人々に対して、「不思議でたまらない」とうたっています。
この最終連の急転換に、この詩を読む人は「はっ!」と息を呑むことになります。
みすゞさんが自然や人に向けた眼差しは、いつまでもどこまでも新鮮です。「あたりまえ」と言って、古びることがありません。
この新鮮な視点に、私たち読者は驚いて、さまざまなことに気づかされるんですね。
「ああ!そうだ!本当に不思議だ!」
……という風に、まるで私たちの視野まで、新しく生まれ変わってしまったような感動に包まれます。
この新しさこそ、「不思議」の詩をはじめとした、みすゞさんの詩の特徴です。
※茨木のり子さんの「六月」も、倒置法と反復法を使っていて、金子みすゞさんの「不思議」と構成が似ています。もしよかったらご覧くださいね。
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