谷川俊太郎さんの「生きる」という詩を紹介します。
実は同じタイトルの詩が二つ存在していて、詩集『うつむく青年』(1971年)に収められている作品の方が有名です。こちらの詩は合唱曲や絵本にもなっています。
でも今回紹介するのは、詩集『絵本』(1956年)に収められている作品。
岩波文庫『自選 谷川俊太郎詩集』(2013年)には、前者ではなく後者が採用されています。
では『絵本』の「生きる」を全文引用しますね。
※『うつむく青年』の「生きる」は、最後に一部引用します。
谷川俊太郎「生きる」~鑑賞・解説~
詩集『絵本』(1956年)より
生きる
生かす
六月の百合の花が私を生かす
死んだ魚が生かす
雨に濡れた仔犬が
その日の夕焼が私を生かす
生かす
忘れられぬ記憶が生かす
死神が私を生かす
生かす
ふとふりむいた一つの顔が私を生かす
愛は盲目の蛇
ねじれた臍の緒
赤錆びた鎖
仔犬の腕
イメージもリズムも自由な詩
一見、関連性があるようなないようなイメージが、コラージュされていますね。
「六月の百合の花」「死んだ魚」「雨に濡れた仔犬」「その日の夕焼」という風に。
何故これらのイメージが繋がるのか、謎があり、想像の余地があります。
それから、この詩はソネット(14行詩)ですが、がっちりしたリズムの定型詩ではありません。
一般的なソネットは、4・4・3・3、または4・4・4・2の行構成をとりますが、この詩は行分けされていません。
イメージ的にも、リズム的にも、ほころびがあって自由なところが、「生きる」という詩の魅力と言えます。
「生きる」を解釈する3つのポイント
では全く無秩序かと言えば、そうではありません。
ポイントは3つ。
第一に、「生かす」というキーワードで、この詩が貫かれていること。
第二に、詩のところどころが濡れているような、潤いを感じさせていること。水は命の源といえます。
第三に、詩に出てくるイメージも、よく見れば「生と死」を感じさせるものが多いです。
臍の緒:胎盤と胎児をつなぐもので、誕生に関わってきます。
鎖:因果の鎖や、DNAのらせんを連想させます。
詩集『うつむく青年』(1971年)より
最後に参考までに、詩集『うつむく青年』の「生きる」を一部引用します。
「ああ、見たことある!」と感じる人も、いらっしゃるかもしれませんね。
もし機会があったら、二つの「生きる」を見比べてみてくださいね。
生きる
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみをすること
あなたと手をつなぐこと(部分)
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