萩原朔太郎「黒い風琴」…おるがんをお弾きなさい女のひとよ

萩原朔太郎「黒い風琴」という詩を紹介いたします。風琴とはオルガンのことです。

黒い風琴

おるがんをお弾きなさい 女のひとよ
あなたは黒い着物をきて
おるがんの前に坐りなさい
あなたの指はおるがんを這ふのです
かるく やさしく しめやかに 雪のふつてゐる音のやうに
おるがんをお弾きなさい 女のひとよ

だれがそこで唱つてゐるの
だれがそこでしんみりと聴いてゐるの
ああこのまつ黒な憂鬱の闇のなかで
べつたりと壁にすひついて
おそろしい巨大の風琴を弾くのはだれですか
宗教のはげしい感情 そのふるへ
けいれんするぱいぷおるがん れくれえむ!
お祈りなさい 病気のひとよ
おそろしいことはない おそろしい時間はないのです
お弾きなさい おるがんを
やさしく とうえんに しめやかに
大雪のふりつむときの松葉のやうに
あかるい光彩をなげかけてお弾きなさい
お弾きなさい おるがんを
おるがんをお弾きなさい 女のひとよ。

ああ まつくろのながい着物をきて
しぜんに感情のしづまるまで
あなたはおほきな黒い風琴をお弾きなさい
おそろしい暗闇の壁の中で
あなたは熱心に身をなげかける
あなた!
ああ なんといふはげしく陰鬱なる感情のけいれんよ。

注)れくれえむ=レクイエム、requiem、鎮魂曲。
とうえん=語彙は不明。おそらく作者の造語。

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萩原朔太郎「黒い風琴」~鑑賞・解説~

詩と音楽が一体

萩原朔太郎の詩の秀逸なところは、詩と音楽が一体になっているところ。詩から音楽が聴こえてくるように感じられるところです。

私はこの詩を読むと、短調(暗い調子)の起伏の激しい曲をイメージします。

その曲は、第一連は静かで、第二連から徐々に盛り上がって、

「けいれんするぱいぷおるがん れくれえむ!」

この詩行でクライマックス。そして、すっと静まりかえって、第二連の終わりには長調(明るい調子)に転調して、幽かな光が差します。

第三連には短調に戻って、フィナーレに向かって再び盛り上がります。

この詩からイメージする曲は、人それぞれでしょうか。それでも、感情の昂っている詩行と、鎮まっている詩行が、目に見えて感じられるかと思います。

O音とR音の押韻効果も生かされていますね。(「るがんをひきなさい んなのひとよ」等々…)

詩と音楽が一体であること。くり返しになりますが、これはとても稀なことです。

物語性の強い詩

萩原朔太郎の詩は、物語を感じさせるところも秀逸です。

この詩について言えば、女のひとが何故おるがんを弾いているのか、読めば読むほど謎めいていますが、何が何でも弾きつづけなければならないという、強い必然性が伝わってきます。

この詩を映画に喩えるならば、一場面を切り取っているに過ぎないですが、果てしなく長い物語が背景にあるように感じられます。この物語の全編を見てみたいと、読む人の気持ちを惹き付けて身もだえさせるような魅力がありますね。

 

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