【9月の詩】北原白秋「金の入日に繻子の黒」

当ブログでは毎月1編ずつ、その月にちなんだ詩を紹介する予定です。

9月の今回は、北原白秋「金の入日に繻子の黒」です。

金の入日に繻子の黒

きんの入日に繻子しゆすの黒――
黒い喪服もふくを身につけて、
いとつつましうひとはゆく。
海のあなたの故郷ふるさと今日けふも入日のさみしかろ。
夏のゆく日の東京に
茴香艸うゐきやうさうの花つけて淡いこなふるこのごろを、
ほんにしなよきかの國のわかいキングもさみしかろ。
心ままなるうたのエロル夫人もさみしかろ。

きんの入日に繻子の黒――
黒い喪服もふくを身につけて
いとつつましうひとはゆく。
九月の薄き弱肩よわがたにけふも入日のてりかへし、
こなはこぼれてその胸にすこし黄色くにじみつれ。
金の入日に繻子の黒、
かかるゆふべに立つは誰ぞ。

北原白秋の第二詩集『思ひ出』についてはご存知でしょうか。

白秋が幼少期の体験と、異国情緒あふれる故郷・柳河の情景を、みずみずしく鮮やかに描いている詩集です。

私はこの『思ひ出』を読んで、白秋の大ファンになりました。

さて、「金の入日に繻子の黒」は、序詞の次に載せられています。実質上のオープニングですね。

「詩集のはじめから喪服の人が出てくるなんて…」と、眉をひそめるかもしれませんが、この詩集の生まれた経緯を知れば納得するでしょう。

白秋の実家は立派な酒倉でしたが、大火災に遭った後、立ち直ることができませんでした。白秋がこの詩集の編集に着手したのが、ちょうど実家が没落したころでした。

詩集の序文「わが生い立ち」において、「故郷と幼少時代の自分とに潔く訣別しようと思ふ」と述べています。「金の入日に繻子の黒」も、幼き日の想いを弔っているようにも見えます。

ところで9月といえばお彼岸。あの世とこの世が通じ合う季節です。この詩に出てくる人も、もしかしたら故人に逢いにいったのでは…と想像します。

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誕生日・忌日一覧(9月)

※青文字の氏名をクリック(タップ)すると、その詩人の作品一覧を見ることができます。

誕生日

高田敏子 1914年(大正3年)9月16日 1989年(平成元年)5月28日

忌日

宮澤賢治 1896年(明治29年)8月27日 1933年(昭和8年)9月21日

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