石垣りんさんの「太陽のほとり」という詩を紹介いたします。
新年の光が満ちあふれるような、清々しい詩です。
太陽のほとり
太陽
天に掘られた 光の井戸。私たち
宇宙の片隅で 輪になって
たったひとつの 井戸を囲んで
暮らします。世界中 どこにいても
太陽のほとり。みんな いちにち まいにち
汲み上げる
深い空の底から
長い歴史の奥から
汲んでも 汲んでも 光
天の井戸。(日本の里には 元日に 若水を汲む
という 美しい言葉が ありました)昔ながらの
つるべの音が 聞こえます。胸に手を当てて 聞きましょう
生きている いのちの鼓動
若水を汲み上げる その音を。新年の光
満ち あふれる 朝です。
石垣りん「太陽のほとり」
太陽を天の井戸に喩えているのが、まず新鮮ですね。
現実の世界では、太陽の光は頭上から降り注いでいるもので、私たちはそれを与えられているだけです。
ところが石垣りんさんの詩の世界では、太陽の光は空の奥底にあって、私たちはそれを汲み上げているですね。
漫然と生きているのではなくて、積極的に生きるために、光を手にしようという姿がここにあります。
それから、私たちが世界中のどこにいても、太陽のほとりで暮らしているという発想も素敵です。
輪になって、天の井戸を囲んで、誰もが平等な世界です。
さらに、この詩の素晴らしいところは、私たちの胸にも、太陽と同じいのちが満ちあふれているところ。
胸に手を当てて 聞きましょう
生きている いのちの鼓動
若水を汲み上げる その音を。
この連を読むと、詩が我が身に当てはまって、ハッとさせられます。
太陽という天の井戸を囲んで、光をみんなで汲み上げて生きている世界。なんだか遠いファンタジーのように感じるものの、実は私たちの奥底にも同じ世界が広がっているんですね。
私たちが思い立てばいつだって、自然界の力や歴史から生じた知恵を汲み上げることができます。それは元日の若水のように、瑞々しく清らかです。
これからの日々を、この新鮮なみなもとを汲み上げるように、生きていきたいです。
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